「企業会計と法人税制について」の個別論点について、前回(令和3年4月5日号)は、減価償却等における企業会計と法人税制の関係性について紹介いたしました。今回は、「役員給与」、「減損損失と評価損」について紹介いたします。
1.役員給与
役員に対する報酬と賞与は、いずれも職務執行の対価であり、会社法は両者を区別することなく、定款の定めまたは株主総会等の決議に基づいて支給する旨を定めています。これを受けて企業会計は、これらの給与をいずれも費用として処理することとしています。
一方、平成18年度の改正法人税法は、役員給与税制を大幅に見直し、定期同額給与、事前確定届出給与および利益連動給与に該当するものに限って損金算入することとしました。
この結果、現行の役員給与税制は、企業会計との間で大きく乖離するとともに、定款自治を尊重する会社法の理念にも反するものとなってしまっています。
したがって、役員給与による法人の恣意性を排除する必要があるとしても、現行法人税法の規定は、所得計算の基本規定としての損金の範囲および公正処理基準の規定からみて妥当なものとはいえず、現行の制度を廃止し、企業会計と同様に役員給与を損金の額に算入することとした上で、租税回避を目的としたもののみを損金不算入とする制度を検討すべきとの意見があります。
2.減損損失と評価損
固定資産の減損に係る会計基準では、固定資産について使用価値や市場価格が下落するなどの理由によって収益性が低下し、投資額の回収が見込めないこととなった場合には、減損損失を認識することとされています。
一方、法人税法には減損損失に関する規定はありません。これに類似するものとして評価損の損金算入規定がありますが、現行制度は、固定資産について災害による著しい損傷があった場合など、評価損を計上できる事由を限定しており、減損会計とは異質なものとなっています。また、減価償却資産の陳腐化償却に関する税法規定も減損会計とは直接的な関係はありません。
このため、企業会計において減損損失を認識しても、その損失について、法人税法上損金とすることは困難な場合が多く、この結果、減損会計基準を適用すると、その対象となった固定資産の帳簿価額は、会計と税法の間で長期にわたって相違することになります。また、帳簿価額の差異に基因してその固定資産の減価償却費も会計と税法の間で不一致が生じることになります。
企業会計における減損損失の認識やその測定は、当事者の主観的判断に属する場合が多いため、現行の法人税法の考え方とは相容れず、仮に減損損失について損金算入を容認した場合には、課税の公平を維持できないおそれがあります。 しかしながら、現行の法人税法は、評価損の損金算入事由を物理的な原因による資産価値の下落に限定しており、その取扱いは保守的過ぎなため、経済的な原因をその対象とするなど、減損会計との調整を図ることが望ましいとの意見があります。
以上となります。
次回以降も企業会計と法人税制の関係性における個別論点を引き続き紹介させて頂きます。