令和2年10月5日号(遺言書の改正)に引続き、今回は第2回として「配偶者居住権」を解説します。
1.配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、残された配偶者が、被相続人(亡くなられた配偶者)の所有する自宅に住んでいた場合、被相続人が亡くなった後も、無償でその自宅に住み続けることができる権利をいいます。
被相続人が亡くなると、被相続人が所有していた財産は配偶者やその子といった相続人が相続(取得)することになります。ただし、相続人が複数の場合には配偶者がすべての財産を取得できるわけではなく、例えば、配偶者が財産のうち自宅を取得することで、預貯金等の他の財産を取得できないといった問題が生じていました。自宅があってもお金がなければ残された配偶者は生活を維持することができません。
そこで、配偶者居住権の創設されたことにより、被相続人が亡くなった後も、配偶者は夫婦で暮らしていた自宅に住み続けながら、預貯金等の財産も取得できるようになりました。
2.メリット/デメリット
配偶者居住権のメリットは、上述のとおり、残された配偶者の生活の維持です。被相続人が亡くなられた後、残された配偶者の居住の安定を図りつつ、配偶者居住権は所有権に比べ低く評価されることで、自宅の所有権を配偶者が取得する場合と比べて、今後の生活維持の原資となる預貯金を配偶者に多めに取得させることができます。
一方、デメリットとしては、例えば介護等で自宅に住まなくなった場合でも自宅を売却できないこと(売却には配偶者居住権の合意解除や放棄が必要)、また、配偶者居住権そのものの設定手続きが煩雑であることなどがあげられます。
3.配偶者居住権の成立要件
配偶者居住権の次の3つの要件を満たすことで成立します。
①亡くなった人の配偶者であること
②その配偶者が亡くなった人が所有していた建物に亡くなったときに居住していたこと
③遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判により取得したこと
4.配偶者居住権の施行時期
配偶者居住権の施行は令和2年4月1日となります。令和2年4月1日以降の相続開始案件から遺産分割等で配偶者居住権を設定できることになります。例えば、亡くなられた日が令和2年3月以前で遺産分割日が令和2年4月1日以降の場合は配偶者居住権を設定できません。
5.どのような場面で配偶者居住権が利用されるのか?
施行されたばかりで実例はないのですが、いわゆる“争続(争う相続)”となる場合に配偶者居住権が利用されるのではないか考えられます。例えば、相続人(財産を取得する人)が配偶者と前妻の子、配偶者と愛人の子などの場合には遺産分割争いになりがちです。“争続”になると遺産分割は基本的には法定相続分(法律で定められた財産の取得割合)となり、仮に財産全体に占める自宅の価値が配偶者の法定相続分である1/2を超える場合、配偶者は預貯金等の財産を一切取得できないことになります。しかし、配偶者居住権が創設されたことで、残された配偶者が居住するための自宅と生活維持の原資となる預貯金を確保できるようになります。配偶者居住権の実際の利用におかれましては専門家までご相談下さい